2013年9月25日水曜日

【化石しろ、醜い骸骨! 文学者の見た朝鮮人虐殺/秋田雨雀】

日本語/English

秋田雨雀は劇作家、童話作家として知られる。関東大震災当時は40歳。数年前から社会主義に接近し、ヒューマニスティックな作風で注目されていた。

1923年9月1日、彼は秋田県にいたが、震災の報を聞いて東京に戻る。雑司が谷の自宅にたどり着いたのは6日のことだったが、その帰路で、彼は殺人を自慢する自警団員と、それを平然と受け入れる群衆を目撃した。多くの朝鮮人留学生と親交を結び、彼らの人間性と民族解放への思いに共感していた秋田にとって、これは大きな衝撃だった。「私は淋しかった!」と、日本人同胞のなかで一人孤立した思いを書き残している。

翌年4月、彼は戯曲「骸骨(がいこつ)の舞跳(ぶちょう)」を発表する。朝鮮人虐殺に対する人間的な怒りをストレートに叩きつける作品であり、彼の戯曲としての代表作となった。



物語の舞台となるのは、震災直後、東京から東北方面に150里のN駅。時間は深夜。傷を負った避難民が収容された救護テントの中だ。疲れきり、ささくれだった人であふれている。

主人公の青年は、朝鮮人襲来の噂を不安げに語る老人に、それを否定して、むしろ朝鮮人が虐殺されている事実を告げて「僕は日本人がつくづく嫌やになりました。もう少し落ち着いた人間らしい国民だと思いました。それが今度のことですっかり裏切られてしまいました」とつぶやく。しかし続けてこうも言う。「僕は国民として日本人には失望しましたが、人間としての日本人には失望していません」。

しばらくすると、自警団の一団がテントに入ってくる。甲冑に陣羽織、在郷軍人の制服、そして手に手に槍や刀と、大時代で滑稽ないでたちである。「このなかに朝鮮人の奴が隠れている」と宣言する彼らは、まもなく、青年と老人の後ろに隠れる若い男を発見する。「僕は何もしていない」「僕は日本人です」と必死に否定する男だが、生年を年号で聞かれて言葉につまってしまう。自警団はおびえる彼の口ぶりを真似して嘲笑する。

このとき、主人公の青年が「よし給え!君達に何の権利があってそんなことを聞くんですか?」と抗議する。このあとに続く彼の大演説は、ほとんど秋田雨雀の叫びそのものである。

甲冑、陣羽織、柔道着…。/君達には一体着る衣服がないのか?
(中略)

君達のいうように、/この人は朝鮮人かも知れない、
しかし朝鮮人は君たちの敵ではない。/日本人、日本人、日本人、
日本人は君たちに何をしたろう?/日本人を苦しめているのは、
朝鮮人でなく日本人自身だ!
そんな簡単な事実が諸君には解っていないのか?
(中略)

この人(朝鮮人の青年)にも敵はあるだろう、
然(しか)しそれは君達じゃないんだ。
君達には解っていない。/何も知らない。
何にも知らされていない。/また何も知ろうと思っていない。
君達の仲間は、この人の友達を
罪も武器もない、/一枚の葉のように従順で無邪気な人達を、
君達の仲間は理由もなく殺したのだ!
(中略)

この人こそほんとうの人間だ!
君達は一体何んだ?/君達の持っているものは、
黴(かび)の生えた死んだ道徳だけだ。
甲冑や陣羽織は骨董品として、/価値があるだろう。
然し生きた人間に何になろう?
もし諸君の心臓の中に血が流れているならば、
諸君は諸君自身の着物が要る筈(はず)だ。

その甲冑を脱いで見給え、/その陣羽織を脱いで見給え、
諸君は生命のない操(あやつり)人形だ!/死蝋だ!
木乃伊(ミイラ)だ!/骸骨だ!

青年の激しい抗議に、自警団の人々は憎しみの目を向ける。「不逞日本人だ…」「主義者だ…」「危険人物だ…」「2人をやっつけろ!」。老人はうろたえ、女たちは泣き叫ぶ。キャンプの中は混乱状態になる。自警団がにじり寄って来る前で、青年は朝鮮人の若者の手をとってさらに語る。

何百人、何千人が、何百年何千年前から、
自分の愛する民衆のために、/殺されたか?
私達は馬鹿な民衆に媚びるために、/生まれたのじゃない、
戦って死ぬために生れたのだ!
正義と友情のために死んで、/行くのだ…。
(中略)

新しい神秘よ!/力と友情との、
新しい人類の結合のために、/生まれ出づる神秘よ!
沸上(わきあが)って/この魂のない醜い潜在の黴を払い落せ!
卑劣なる先祖崇拝の虚偽と/英雄主義と、/民族主義と
の仮面をはぎとって、/醜い骸骨の舞跳(ぶちょう)をおどらせよ。
オオケストラよ、/暫(しばら)く待って呉れ、
化石しろ、/醜い骸骨!
化石しろ、/醜い骸骨!

青年が叫ぶと、甲冑やら陣羽織やら鉢巻やらが、刀を振り上げた姿のままで化石になってしまう。続けて「骸骨よ、跳(おど)り出せ!」と命じると、骸骨と化した自警団は音楽に乗って激しく踊り始め、次第に弱っていく。すると、舞台のそでから鋭い笑い声が響いてくる。

死んだ人々よ/よく笑って呉れた!
オオケストラよ、/最後に別れの輪舞曲を…。
醜い骸骨共よ、/跳りながら消え失せよ!

骸骨たちは関節から折れて地面に倒れていく。一瞬、舞台は暗黒に包まれ、再びほの明るくなったテントのなかでは、女たちがすすり泣いている。看護婦が静かに口を開く。
「お気の毒でした…でもやっぱり…」
こうして、物語は2人の死を暗示して終わる。



秋田雨雀は、早くも1923年9月には朝鮮人虐殺についての論考を読売新聞で発表している(「民族解放の道徳」)。そのなかで彼は、自警団に現れた残虐性が、「戦争によって国家的地位を確立した」日本では「道徳の性質を帯びている」と指摘し、日本人は「国民道徳」から解放されて、「本当の広い自由な新しい道徳」「人類共存の生活」へと進まなくてはならないと主張する。そして
「もし今日の国民教育或いは民族精神というようなものを是認し或いはビ縫して行ったならば、恐らく日本人は幾度も幾度もみにくい残虐性を暴露して、民族の持っているいい素質さえも失ってしまうだろう」
と警告した。

自警団の暴力に、彼は日本の行く末をはっきりと見ていたのである。



参考資料:『日本プロレタリア文学集35』(新日本出版社)【同書には亀戸署で殺された平沢計七の作品も収められている】、山田昭次『関東大震災時の朝鮮人虐殺とその後』(創史社)、関東大震災五十周年朝鮮人犠牲者追悼行事実行委員会編『関東大震災と朝鮮人虐殺』(現代史出版会)


How Did A Storywriter Viewed the Massacre of Koreans?
"Petrify, the Ugly Skeleton!" - Ujaku Akita, Skeletons Dance


It was a shock for Ujaku Akita to see vigilante groups boasting of killing of Koreans and people taking it for granted. The storywriter had many friends from Korea. Skeletons Dance, one of his best works, expresses his indignation against Japanese.

The scene is a refuge camp full of injured by the quake where an old man is scared at rumors of Korean riots. The leading character tells him the truth is that Japanese are killing Koreans. After a while a vigilante group comes up searching for a Korean and presses a youth with questions as it finds him hiding behind the old man.
"This man may be a Korean, but Koreans are not your enemy," the main character breaks in. "but still people like you all killed his friends for no reason!"
He accuses the vigilante group of being puppets or skeletons with masks of despicable nationalism. As he calls out, "Petrify, the ugly skeleton!" the vigilante group members turn into skeletons, and dance vigorously until they gradually fade away and finally drop.

In an article Akita contributed to Yomiuri newspaper he pointed out that the cruelty of the vigilante groups had an aspect of a moral of the Japanese society, and warned Japanese would repeatedly express the cruelties and end up losing even their good characters unless they freed themselves from such a moral.